お客様とテクニシャンの間に橋を架ける、 サービス・アドバイザーにとって大切なこと
クルマが故障した、定期点検をしなければならないなど、ディーラーに行くのは大抵、やむを得ない状況が多いだろう。しかし、お客様とメカニックを繋ぐ役目を果たすサービス・アドバイザーは、それを歓びや楽しみに変える。今回は BMW 高輪に同職として勤める 2 人に話を聞いた。これを読めば、ディーラーに行きたいと思って頂けるだろう。
膨大なクルマの知識と最新テクノロジーで、サービスの質を高める
BMW 正規ディーラーにおいて、入庫から整備、引き渡しまでのプロセスは細かく段階わけされている。その多くの役目を務め、お客様の窓口を担っているのが、今回、焦点を当てるサービス・アドバイザーたちだ。彼らはお客様とテクニシャンとの間に橋を架ける。お互いが考えていること、あるいは望んでいることを伺い、今、車両にとって施すべき処置を判断する。それぞれがチグハグになってしまえば、過剰にも不足にも成り得る。的確に整備を行うためには不可欠な立場なのだ。
BMW 高輪のサービス・アドバイザーたちを束ね指揮をとり、発生してしまった問題をクリアにするチーフ・アドバイザーの當麻慎一さんにまず、そんな責任を負う職務に就くうえで大切に考えていることを聞いた。
「故障の際はその原因、点検の際はパーツ交換のタイミングを探る。お客様に症状や具合を説明し、技術サービスを提供するテクニシャンにそれを伝えることが我々のメインの仕事になりますから、第一にクルマをよく知っていなければなりません。そのため少なくとも 10年間、メカニックとしての経験を積んでからサービス・アドバイザーになるというのが弊社では一般的です。私は他社に勤めていた経験がありますが、この 10 年という期間の長さは BMW ならでは。それだけ、弊社のサービス・アドバイザーはクルマについての知識を徹底的に身につけていると言えるのではないでしょうか。なぜならば、現代の BMW のクルマは、内部に搭載されている数多のコンピュータがありとあらゆる部分を制御しており、そのソフトの不具合が警告灯を光らせる原因の大半を占めているから。テクニシャンの作業は、まずそこをチェックするところから始まるので、我々がクルマをきちんと理解していれば連携がスムーズになるということです」
當麻さんは、昔からクルマを触ることが好きでディーラーに勤めるようになったのだという。対クルマから対ヒトへ。職務内容が変わったことで、接する対象がおおいに変わった。移行した時、苦労はなかったのだろうか。
「極論を言ってしまえば、テクニシャンはクルマとの対話ができていれば良いので、寡黙でも仕事はできるんですよ(笑)。でも、サービス・アドバイザーはそれでは成立しない。大切なのは対人能力や協調性。そして主体性と客観性の両方を併せもつことが大事です。とりわけ BMW のサービス・アドバイザーを名乗る以上は、お客様とメカニックに納得してもらうための自信をもちつつ、言葉遣いひとつひとつに気をつけ、誰もが快く感じる振る舞いと対話の精度を高めることを徹底すべきと考えています。それと、お客様とのやり取りを円滑に進める上で役立っているのが、ISPA mobile という iPad アプリケーションです。これは BMW コネクテッド・ドライブ(インターネットを利用し、様々な情報をお客様に提供する登録制のサービス)と関連したツールで、その一環である BMW テレサービスを通じてディーラーに逐一送られてくるお客様の車両の状況を、直感的かつ容易に確認できるものです。ISPA mobile があるおかげで、始めのコミュニケーションが以前より圧倒的に簡潔になりましたね。こういった、最新テクノロジーをいち早く導入し、素早く的確に問題を発見できる点は、BMW ならではの特徴と言えます」
お客様に合わせて話し方を変え、カーライフの提案もする
サービス・アドバイザーにとって大切なことを端的にいうとすれば?というこちらの問いに、當麻さんは「接する人の心のケア」と答えた。「それが一番できている、当社一のサービス・アドバイザー」と當麻さんが紹介してくれたのが、次にご登場頂く刀上 愛さんだ。先に、サービス・アドバイザーになるための条件はテクニシャンとしての豊富な経験があること、という當麻さんの発言があったのだが、刀上さんの経歴はかなり異色のものといって良い。
「私は派遣として BMW GROUP に入り、当初は受付を担当していました。それがいつの間にか、PCに情報を打ち込む作業やお客様へのお茶出しといったサービス・アドバイザーの補佐に変わり、お客様対応をするチャンスも与えて頂くようになって、という他の方とは全く違う流れで今の仕事に就いたんです。クルマについて知っていることはガソリンスタンドのアルバイトで得た用語くらいで、最初は見よう見まね。そこから自動車整備士振興会に通って三級整備士の資格をとり、現場では都度、テクニシャンに色々と教えてもらい、およそ半年間で最低限の知識を詰め込みましたね」
ほぼゼロからのスタートな上に、仕事をしながらの通学。相当な集中力で勉強に勤しんでいたことは想像に難くないだろう。しかし、一所懸命に取り組んでいたものの、幾度となく辛いことにも直面し、長い間、素直に仕事を楽しめなかったと刀上さんは話す。
「由緒正しいプレミアムカーブランドであるが故に、BMW のオーナーさんはとりわけクルマに対して強いこだわりをもっている方が多い印象があります。そのため、クルマに詳しくないと思われがちな女性だと、どうしてもマイナスイメージをもたれてしまうんです。私が出てきただけで『わかる人を呼んで』といわれたこともありました。それでもめげずに立ち向かおうとしたんですが、結局、わからないことが出てきて先輩にバトンタッチすることに……。半年間で覚えた知識だけでは、お客様の愛情や長年乗ってこられた経験には敵わなかったんですよね。でも、その辛さが糧になっていき、知識も増えていくと、自分で色々なことが解決できるようになって、お客様の信頼を得られるようになりました。私の場合、女性であるから損なことも少なくない反面、お客様に納得していただいた時は大きくプラスに変わるので、それがやりがいに繋がっているんです」
刀上さんは、BMW東京の天王洲サービスセンターに2年間、勝どきサービスで3年半勤めた後、現在の高輪サービス勤務となった。対応しているお客様のなかには天王洲時代からおつき合いがある方もいるそうで、それも刀上さんにとっての自信になっている。
「私は他のサービス・アドバイザーとは違うことを武器にしようと、コミュニケーションを重視するように心がけてきました。できるだけ専門用語は使わずに、例えば誰もが日常的に使う家電に置き換えて不具合の説明するようにしたり。そうすると、打ち解けることもできて、それがリピートに繋がっているんじゃないかなと思っています。加えて、お客様それぞれに合ったドライブコースをアドバイスしたりといった、カーライフをより楽しんで頂ける提案も併せてお話しするようにしています。整備履歴さえ残っていれば、BMW の正規ディーラーであればどこでもきちんと整備ができるはずなので、それ以外の付加価値をつくれるかが、私のような立場のサービス・アドバイザーにとっては重要だと考えているんです」
當麻さんと刀上さんの真摯かつ明るい対応は、お客様がディーラーに行くことを義務やトラブルシューティングをするためではなく、歓びや楽しみに変えている。「お茶を飲みながら話をするだけのためにわざわざご来店してくれる方や、整備に時間がかかってしまったのにも関わらず、引き渡しの時に、お菓子やハンカチをプレゼントして下さる方もいらっしゃるんです」。この刀上さんのエピソードは、特にそれを象徴しているように思える。
photograph=Ryo Kawanishi
text=Yusuke Osumi