ジャーナリスト&編集者が語る プロフェッショナルたちの「BMW Life」 第2回・モータージャーナリスト 島下泰久
世界有数の自動車大国である日本では、毎年数限りない新型車たちがリリースされます。
それら新型車にいち早く試乗し、魅力や特徴をユーザーやファンに紹介する役割を担っているのが自動車ジャーナリストや自動車専門メディアの編集者の皆さんです。連載形式で展開するこのコーナーでは、そうした方々の中でBMWを愛用している、もしくは愛用していた経験のある方々から、BMWと暮らすことの楽しさや、より深くBMWの魅力を味わうためにBMW Serviceをどう活用すればよいか、といったノウハウを伝授していただきます。
第2回・モータージャーナリスト 島下泰久のBMW Life
仕事上、これまで本当に多くのBMWに触れてきたけれど、もっとも印象深いモデルはと訊かれたら、かつて自分で所有していた318isクーペが、今でも真っ先に思い浮かぶ。E36と呼ばれる型式のこの美しいクーペは、中古で手に入れた人生初の輸入車。ともに過ごした数年は、本当に刺激的で楽しかった。
実はこのクルマは、元々は当時よく仕事をいただいていた、そして今では無くなってしまった某輸入中古車専門誌の長期レポート車だった。それがお役御免になるというタイミングで、左ハンドルにマニュアルトランスミッションという当時でもレアな組み合わせ、そしてカリプソレッドというこれまた希少な、けれどとても美しく品のあるボディカラーに惹かれて、買い取りを申し出たのである。
更に言えば、そうやって毎月連載されていたレポートを読んでいたから、正規ディーラーでどれだけ丹念に整備されていたかを解っていたというのも大きい。中古車にとって履歴は大切。その安心感も、購入の大きな決め手となったのだ。
手に入れてからは、とにかくどこへ行くのにも、この318isクーペと一緒だった。もっとも機会が多かったのは、もちろん仕事のアシとして。自動車メディアが撮影でよく使う箱根などへのロケ地には、何度訪れたのか解らないくらい、このクルマで走って行った。普段の移動は安心感が高く、とても快適。しかも標準装備のオーディオの音質が結構気に入って、それまでにないくらいクルマの中で音楽を聴く機会が増えたのを覚えている。
但し、そんなオーディオも帰り道にはオフに。何と言っても318isクーペ、走りが楽しいクルマだったからだ。エンジンは排気量1.8・で、最高出力140psでしかなかったけれど、そのぶん持て余すことなくアクセルを踏み込むことができたし、マニュアルトランスミッションを駆使する歓びもたっぷりと味わえた。とにかくフットワークが良かったから、登りは遅くても下りは速く、仕事終わりの開放感も相まって、ついつい夢中になって走らせていたのだ。
もちろん、遊びもすべてこのクルマでこなしていた。318isクーペのスタイリングはとてもエレガントで、且つ控えめ、本当にカッコ良いクルマだったけれど、それは決して実用性を犠牲にしたものではなく、実用的なリアシートは備わるし、ラゲッジスペースだって十分以上だったから、普段使いでもまったく困ることがなかった。この辺りは、今の4シリーズ クーペにも共通する美点と言える。
デートも、やはりこのクルマの出番だった。ああ、思い出した。当時のガールフレンドは茨城県在住で、東京でデートをした後に、よく送って行っていたのだ。但し、薄情と言われそうだけれど、車中でのエピソードの類いは実はほとんど思い出せない。代わりにパッと映像が浮かぶのは、帰りの常磐道の、独りドライブの光景。この時間を何より愛していたのだ。
ついつい走りの話になってしまったけれど、やはりBMWを語る上では、どうしてもこうなってしまう。色々な場面に於ける走りの感触、今でもありありと思い出せるのは、その濃密な走りのテイストのおかげだろう。
BMWは言ってみれば万能車。快適で、使い勝手に優れ、場面を選ばず乗ることができる。しかも、それでいて走りが、とにかく楽しい。そうなると、長く乗り続けることができそうだし、実際に大体そうなる。筆者自身も、長期にわたってカリプソレッドの318isクーペとの生活を楽しんだのだった。
そういえば、その間にトラブルらしいトラブルには遭った記憶が無い。それは、あらゆる部分の品質の高さに拠るところも大きいだろうし、先に書いたように、しっかり整備されていたクルマであることも、それに貢献していたのだろう。自分では所有している間にBMW正規ディーラーに持ち込んだかどうか記憶が薄いのだが、仮に持ち込んでいなかったとしても、その意味ではすでに、正規ディーラーのメリットを享受していたと言ってもいいのかもしれない。
ああ、こんなことを書いていたら、あのステアリングの繊細な手応え、軽やかなフットワーク、エンジンのスムーズな吹け上がりが、リアルに思い出されてきてしまった。もう一度、味わってみたくなってきちゃったな……。
Profile:
島下泰久
Yasuhisa Shimashita
モータージャーナリスト
’16-’17日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
1972年神奈川県生まれ。1996年よりモータージャーナリストとして活動を始める。
燃料電池自動車や電気自動車などの先進環境技術、そして自動運転技術を中心に、走行性能、ブランド論までクルマを取り巻くあらゆる事象を守備範囲に自動車専門誌、一般誌、ファッション誌、webなどに寄稿。その他、様々なメディアへの出演、講演を行なう。
世界のモーターショー取材、海外メーカー国際試乗会へも頻繁に参加しており、年間渡航回数は20回を超える。
2011年6月発行の2011年版より、徳大寺有恒氏との共著として「間違いだらけのクルマ選び」の執筆を開始。「2016年版 間違いだらけのクルマ選び」より単独での執筆となる。近著に「2017年版 間違いだらけのクルマ選び」(草思社)。