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BMW

整備士の教育機関、BMW Group アカデミーの存在意義。

アンダーカバーを外したBMW i8を眺める高橋。「すでに150回ほど、資格取得のためのHVバッテリー脱着試験を行っているのですが、まだまだ元気に走ります」とのコメントは、試験合格者の作業がいかに正確であるかを物語っている。
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幕張と神戸にあるBMW Group アカデミーは、全国のBMW正規ディーラーに配属されている全整備士が正確なメインテナンスに関する知識、スキルを学ぶ施設だ。ここで技術系のトレーニングマネジャーを務める高橋昌志に、その存在意義などを聞いた。

バリケードが張られたBMW i8のバッテリー。高電圧が車体に流れていないというサインがメーターパネルに出ない限り外してはいけないうえに、専門のスタッフしか触ることができない。

クルマは人生を豊かにする存在だ。目的の場所まで徒歩や自転車移動よりも圧倒的に早く着くことができ、燃料さえあれば、どこまでも遠くへ行くことも可能。足となり、思い出を彩るかけがえのない相棒にもなる。しかし、正しく整備が行われていなければ仇となることもある。クルマは数えきれないほど多くの部品で構成されており、「ガソリン(あるいは電気)といった血が通った有機体ともいうべき複雑さを備えている。それゆえどこか故障を起こせば、大事故に繋がる可能性をはらんでおり、人間の身体と同様に、信頼できるプロフェッショナルによる検査・点検とメインテナンスをする必要がある。BMW Group アカデミーは、それを学ぶための教育機関だ。
高橋はカリキュラムの代表例として、近年、著しい進化を見せるEV(電気自動車)、PHEV(プラグインハイブリッド自動車)、HV(ハイブリッド自動車)といった、いわゆる高電圧車両を扱うプログラムについて語ってくれた。

愛車のBMW i3で平日は毎日、自宅から片道およそ50kmある幕張に通い、休みの日はE36 318isで耐久レースにも参加しているという生粋のカーガイでありBMWファンだ。

「高電圧車両は誤った手順で整備すると感電してしまう恐れがありますから、ガソリン車よりも慎重にならなければなりません。これを扱うためには、整備士とは別のBMW AG(ドイツ本社)が規定した内容に日本国内の安全要件を盛り込んだトレーニングを受講し、試験に合格することによって与えられる特別な資格が必要なのです。資格取得のための試験を受ける前にトレーニングを設けているのですが、その前にも試験を用意しており、それに合格しなければ先に進むことはできません。どんなに懇願してもチャンスは2回限り。 通らなければ、一生、その方はトレーニングすら受けることができません。試験に落ちたということは、事前の準備、すなわち勉強を怠ったということ。半端な姿勢の表れで、将来的に事故を起こすと我々は判断します。高電圧車両の資格を取得される整備士の数をやみくもに増やす必要はなく、真摯にクルマと向き合う姿勢を持った方を育てたいと考えています」

この厳しい制度が生まれる決定的なきっかけとなったのは、ピュアなEVをラインアップするBMW i3の誕生だった。BMW i3の床下にはおよそ250~400Vのリチウムイオン・バッテリーが搭載されており、常に高電圧を流しながら車体を走らせている。よって、HVバッテリー分解整備の際は、Max約400Vの電圧から自分自身を守るために、規定された正しい手順で作業を行わなければ命の危険にもつながりかねない。人間の臓器に触れるくらい複雑なことを、危険と背中合わせで行うということなのだ。

24種類、37機の新旧のエンジンが格納され、圧巻の景色が広がる部屋。「講座の定員は12名。4人に1台、きちんとエンジンがあてがわれるよう、ここで保管しています」

新人、ベテラン問わず、BMWの最新技術を学べるコース。

BMW Group アカデミーでは、他にも様々な講座が行なわれている。まず、BMW Groupに入社した全員が受けるNSO(ニュー・スタッフ・オリエンテーション)と呼ばれる研修プログラム。このプログラムはその名の通り、新人研修を指しており、主にブランド・アイデンティティなどを学ぶ。テクニシャン(=整備士)は、NSOに続き、先に紹介したELECTRIC BASICという電気系統の基礎を学習するコースを受講する。ELECTRIC BASICは以前、マイスター(=トップクラスの整備士)を受験するために設けられていたコースだったが、高度な電気システムを搭載するクルマが増えたことで、この位置づけとなった。

正規ディーラーに勤めるテクニシャンの9割は、自動車整備学校を卒業した、クルマに対してある程度の知識をもった人材なのだが、残りの1割はゼロスタートなのだという。そういった方々のためにクルマのことをいちから学べるコースが昨年、新たに開設された。「年間で20人ほど、自動車整備学校を出ていない者が入社します。このコースを受講するのは就職して2年くらいという新人ばかり。なかには入社して9カ月、ずっと洗車ばかりを担当していたという者もいました。彼はここに来てようやくクルマに触れるようになった、と喜んでいましたね」。ゼロスタートの若手スタッフに少しずつステップアップできるチャンスを与えられるということも、BMW Group アカデミーの存在意義のひとつである。

クルマは日々進化し続けている。BMWは大きくわけて10のシリーズを展開しているが、それぞれ代替わりをすると、同じシリーズ名を冠していたとしても、デザインだけでなく中身もまるっきり別のものに変わってしまう。つまり、10年前に学んだ知識は糧にはなるものの、現代には活かせなくなる。古いモデルに対しては詳しいけれども、新型については何もわからない、ということが起きないよう、ベテランのテクニシャンでも受講可能な、ニューモデルについて学習するコースも用意されている。

また、BMWには、進化に伴い整備の方法をいちから築くのではなく、全世界でその方法をアップデートさせながら共有できる重要なツールがある。正規ディーラーにしかないBMWテスターがそれだ。このツールは簡単にいうと、クルマに搭載されている各コンピュータ同士を連携させ、それぞれに不具合がないかどうかを図るもの。不具合があると診断されると、その処置の指示が表示され、基本的にテクニシャンはそれに基づいて整備を行う。

テスターと、そこに接続されているアプリケーションについて説明をしてくれた高橋。このアプリケーションも多言語に対応している全世界共通のシステムだ。

「テスターは全世界で同じものが使われていて、診断結果と解決方法はすべてBMWのネットワークを介して本国であるドイツに吸い上げられ、情報として日々、蓄積されています。要するに正規ディーラーであればどこでも、様々なトラブルシューティングが行える確かなバックグラウンドがBMWにはあるのです。BMW Group アカデミーにはテスト用のデモカーが多くありますから、テクニシャンはそれでまず練習しておくのがベストです」

整備士の教育を徹底するとともに、独自のシステムを構築して故障への対応を図っているのは、安全のために他ならない。BMWは整備作業中の事故を起こさせない、ということを根底から考えている。ここまで細かく、厳格に整備士の教育を行い、土台を築いているメーカーは他にないと、高橋は最後に自負を語った。

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